奈良・春日大社は、全国に広がる「春日神社」の総本社として知られています。その御祭神である「春日の四柱(よはしら)の神々」は、日本神話と深く結びつき、国家や人々を守護する尊い神々です。今回はその四柱の神々についてご紹介するとともに、香川県丸亀市に鎮座する丸亀春日神社とのつながりにも触れてみたいと思います。
春日大社と四柱の神々
春日大社は、奈良時代のはじめ、平城京遷都に伴って藤原氏の氏神を祀るために創建された神社です。ここには、武甕槌命(たけみかづちのかみ)、経津主命(ふつぬしのかみ)、天児屋根命(あめのこやねのみこと)、**比売神(ひめがみ)**という四柱の神々が祀られています。
この四柱は、それぞれ異なる神社や地域に関係しながらも、春日大社では一体として信仰されており、日本の神祇信仰における重要な位置を占めています。
一柱目:武甕槌命 ― 鹿に乗りて春日へ
武甕槌命(たけみかづちのかみ)は、常陸国・鹿島神宮の御祭神としても知られる武神で、天照大御神の命により、葦原中国の平定(国譲り)にあたって活躍された神です。その名が示す通り、雷や剣の力を象徴し、悪を鎮め、正義をもたらす存在です。
春日大社創建に際して、この武甕槌命が白い神鹿に乗って奈良の御蓋山(みかさやま)に降臨したと伝えられています。この伝承にちなみ、春日大社の神鹿は神の使いとされ、今もなお奈良公園には多数の鹿が自由に歩いています。
つまり、奈良公園の鹿たちは、武甕槌命に随ってきた「神の使い」であるという信仰に由来するのです。単なる観光名物ではなく、深い神話の背景を持つ存在なのです。
二柱目:経津主命 ― 香取の剣神
経津主命(ふつぬしのかみ)は、千葉県の香取神宮に祀られる武神で、武甕槌命とともに国譲りに尽力した神です。日本書紀においては、剣の精霊とも言われ、国家の平安を守る象徴的存在とされています。
春日大社においては、武甕槌命の側に祀られ、武の守護神として一体のように信仰されています。この二柱は「東国の神々」とも言われ、藤原氏が信奉することで中央政権における武威と正当性を強調する意味合いもありました。
三柱目:天児屋根命 ― 祝詞の祖神、丸亀とのつながり
三柱目の**天児屋根命(あめのこやねのみこと)**は、中臣氏(のちの藤原氏)の祖神であり、祝詞(のりと)を奏上したことから「祝詞の神」「言霊の神」として知られています。天岩戸の神話において、神々の前で祝詞を唱え、天照大御神の心を動かした重要な神とされています。
この天児屋根命こそが、香川県丸亀市の「丸亀春日神社」の主祭神です。丸亀春日神社は、奈良の春日大社を勧請して建立された神社であり、四柱のうち特に天児屋根命を中心に祀っています。
つまり、丸亀春日神社を訪れることは、言霊の力を司る神、天児屋根命に直接祈りを捧げることであり、また春日信仰の中心的存在である春日大社と精神的に繋がる意味も持っています。
地域の守り神として、また学業や言葉のご利益を求める人々にとって、天児屋根命は今も深い信仰の対象です。
四柱目:比売神 ― 豊穣と安寧を司る女神
最後に、比売神(ひめがみ)と呼ばれる女神は、具体的な神名は明記されていませんが、一般には天児屋根命の后神であるとされます。春日大社では、天児屋根命とともに第三殿・第四殿に祀られ、家庭円満や安産、五穀豊穣の守護神とされています。
このように、春日の四柱の神々はそれぞれに神話的・歴史的背景を持ちつつ、総合的に「国家の守護」と「人々の安寧」を支える神々として崇敬されてきました。
春日の神々のこころを、今に伝えて
丸亀春日神社に参拝することは、ただ地域の神社を訪れるという以上の意味を持ちます。奈良の春日大社から連綿と受け継がれてきた神々の御神徳に触れることができる貴重な機会であり、とくに天児屋根命とのつながりを感じられる場所でもあります。
また、春日信仰の象徴ともいえる**「鹿に乗って降臨した武甕槌命」**の神話を思い起こすと、奈良の神鹿の存在や自然との共生の精神が、現代においてもなお尊い価値を持っていることに気づかされます。
四柱の神々がそれぞれの力と役割をもって支え合うように、私たちも地域社会や家族、自然との調和を大切にしながら、神々のこころを日々の暮らしに生かしていきたいものです。